ファンタジー│約6万字│完結
弔いと死生観をテーマに描いた中編です。「カクヨム МFブックス イケオジ小説コンテスト」応募作品
「お嬢さん、ここは夜風が冷えます」
月を仰ぐ討伐対象に一体のホムンクルスは外套を差し出し、死地に咲いた花を支えるように、静かに抱き上げた。
墓守が死者の名を弔い、屍花の魔女が通った地には花が咲く。終われぬ者たちへ所在を与えていく弔い幻想譚。
カクヨムのイケオジコンへ応募するにあたり、成熟した男の格好よさとは何だろう、と考えました。
私の答えは、生死や過去を自分の正義で上書きせず、死者の尊厳を守れる男でした。相手が自分を取り戻すまで、尊厳の外側を見守れる人です。
ロアは、最初から四十代半ばの男の姿で造られ、その見た目に見合うだけの年月を墓守として過ごしてきました。
彼が接してきたのは死者ばかりです。自分自身を手をかけられるべき存在と考えていません。リュディアとの出会いを通して、ロアはようやく自分も大事にされてよいと覚えていきます。
また、ロアはただの墓守です。チートも何も存在しないため、ヒロインであるリュディアのほうがよほど強い。それでも彼は、屍花の魔女をあくまでも一人のお嬢さんとして守ります。
なお、ホムンクルスなので顔にほとんど感情が出ません。その代わり、感情が高まると胸郭の奥の炉が燃え、花に恋を託してきます。
礼節あるおじさんの乙女ムーブを、炉心音でお楽しみください。
誰かを救った物語は、救えなかった存在や、名もなく働いた存在を背景へ追いやりがちです。この話では、災厄で人間が少なくなってしまった世界で、大きな物語の中へ取りこまれ、本人の死さえ持てなくなった者を一体ずつ役割から降ろして弔うことを書きました。
ロアは死者へ正しい意味を与えるのではなく、その者が実際に残した名や形見や残響を拾います。そして、全ての死を弔おうとする墓守自身もまた、誰かに名を呼ばれ、帰る場所を与えられなければ、役割に使い潰されてしまいます。
作中では墓守として造られたホムンクルスと、悪名を着せられた屍花の魔女が、互いを役割から手折り、手入れをし合います。
役目を終えることと、生きることは両立するのではないかと思っています。